想像型需要の新産業を指向する


1.人工物の飽和からの脱却

世界規模で経済不安が蔓延している。特に、これまで高度成長によって栄華を謳歌してきた先進国の経済基盤が揺らいでいる。ヨーロッパではギリシャの財政危機がイタリアに飛び火するなどユーロ諸国全体が経済的に不安定になり、アメリカでは失業率の高止まりにより希望の星であったオバマの政策に対する批判が高まるなど、欧米とも先の見えない時代に突入している。こうした中、日本もまたバブル崩壊後、20 年以上にわたり長いトンネルから抜け出せないでいる。
さまざまな原因が考えられるが、ここでは、これを物質の充足という側面から考えてみたい。日本では1950 年代後半、三種の神器と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が全国で爆発的に売れた。さらに、高度成長期の1960 年代半ばには、これらに代わり、いわゆる3C といわれるカラーテレビ、クーラー、カー(自動車)が売れた。日本は戦後の急激な経済成長の中で、まずこれらの製品に対する旺盛な国内需要に応じて産業が育ち、やがてその力を世界へと広げていった。しかし、これらの需要は、そもそもすべて海外の先進国が作ったものである。いわば、先進国への憧れが需要を作っていたといえる。『日本「再創造」』(小宮山宏著)でもいわれているが、欲しいもの、必要なものが売れていくという構造から成る需要はいずれ飽和する。
たとえば、昭和初期、庶民にとっては高嶺の花であった車も今や人口2 人に1 台にまで普及している。自動車先進国であるアメリカを含め先進国ではほぼこの割合で車を所有している。これは2 人に1 台所有したところで自動車に対する需要が飽和したことを意味する。もちろん、車がまったく売れなくなるということではない。日本には6000 万台の自動車があり、その寿命は平均して12 年であるから、6000 万台÷ 12 年=年間500 万台は売れる。実際、日本の自動車の年間販売台数は、近年、若干の増減はあるがほぼこの水準を維持している。要するに廃車にする分だけ、売れるということである。だが、ここでは更新需要(買い替え)しか望めない。この更新需要こそが、先進国に需要不足の苦悩をもたらした要因である。すなわち、国内での需要が一定に達すれば、企業は市場を求めて海外に出ていくが、そこには世界中のメーカによる厳しい市場獲得競争がある。そして、たとえこの競争に勝ったとしてもやがてそこでも需要は飽和していくのである。このように人工物は必ず飽和する。
現在世界の需要を牽引している中国市場に目を向けても、需要は意外と早く飽和すると予測される。2010年の中国の自動車販売台数は1800万台で100人に1.3台が売れたことになる。日本の自動車販売台数が100人に1台になったのは1963年、その後5〜6年で100人に4台になり、以降、若干の変動はあるもののほぼ同じ水準を維持している。最近の中国経済の急成長を考えれば、中国が日本の水準に追いつくのは5年以内と考えていいだろう。インド等、中国以外の途上国も同様の経緯をたどることが予想される。
内需が飽和するので外需に向かうという企業の考え方は間違いではないが、国の方針としてはその先を考えなければならない。ここで、議論をわかりやすくするために人工物の飽和に向かう20世紀型の需要を「普及型需要」、この需要を満たす産業を「普及型需要」産業と呼ぶことにする。現在「普及型需要」産業が直面している問題は、グローバル経済の中で厳しい価格競争にさらされていることである。これを回避するために企業は生産拠点を国内からより賃金の安い途上国へ移しているが、これによって国内は空洞化し、雇用問題が発生する。さらに、生産ノウハウを身につけた途上国の企業の台頭により国内企業がシェアを奪われるといった問題も発生する。
こうした問題に対応するためには、どうすればよいか。1つは、これまでの「普及型需要」に対して、イノベーションにより新たな付加価値向上を図り、需要の再創造を行うことである。これにより、価格競争により奪われたシェアをもう一度取り戻すこともできる。たとえば、技術開発によってエアコン、冷蔵庫などの電化製品のエネルギー効率が飛躍的に向上すれば、国内市場、海外市場で買い替え需要を発生させることも可能となるだろう。また、もう1つの方法は、新たな需要に対してこれまでなかった市場を創り出すことである。「有限の地球」「高齢化する社会」「知識の爆発」が21世紀のパラダイムであるとすると、ここから新たな需要が生まれてくる。この需要もやがて「普及型需要」となるが、20世紀型需要とは異なるものという意味でここでは「創造型需要」、この需要に対応する産業を「創造型需要」産業と呼ぶこととする。
日本ではすでに20世紀型の「普及型需要」は飽和しているので、それだけに頼ることはできない。そこで、これまで顕在化していなかった「創造型需要」に活路を見出すことが重要となってくる。国内の「創造型需要」産業による市場開拓を、「普及型需要」産業におけるイノベーションやその国外への早期展開と補完的に進め、その相乗効果を追求するべきである。

2.「普及型需要」産業の高度化と限界

まず、「普及型需要」産業のイノベーションの現状をみてみる。20世紀後半、日本ではカラーテレビ、クーラー、自動車が急速に普及した。それぞれのイノベーションの方向は、薄型・大型化、成績係数向上、燃費向上であり、今もその延長にあるといえる。これらの技術開発分野では日本はトップを走っていたが、すでに諸外国に追いつかれ、現在は厳しい価格競争のステージに入っている。このまま技術開発を続けるのか撤退するのかの判断は各企業に委ねられるが、その判断を下すときに重要なポイントについて指摘したい。
技術開発の主な狙いは効率性の向上である。この効率性をどこまで上げられるかという点については、科学的な理論値があることを忘れてはならない。たとえば、エアコンの効率性は、成績係数で評価される。成績係数とは、1キロワットの電力を消費したときに何キロワット分の冷房や暖房ができるかを示したものである。1990年のエアコンの成績係数は3であったが、企業の技術開発が進み最新機種の成績係数は7まで上がっている。エアコンの成績係数理論値は使用条件により異なるが、外気温度が33℃のときに室内を26℃にするための理論値は43となる。ここからいえることは、理論値と現在の値が乖離しているほど、イノベーションの可能性が高いということである。
自動車産業と住宅産業のイノベーションの方向は、前者では電気自動車や燃料電池車の開発、後者では窓の二重化、断熱化によるエネルギー効率の向上であり、企業もこれらの分野に力を入れている。省エネに対するニーズは震災後、急速に高まっており、これからの大きなイノベーション分野となるのは確実である。
もっとも、自動車産業と住宅産業では少し様相が異なる。日本の自動車産業は、環境対応技術に関しては世界のトップに位置しており、ハイブリッド、プラグインハイブリッドでも他を大きくリードしている。この延長上にある電気自動車や燃料電池車についても、これまでどおり日本は世界の先端を走り続けるだろう。日本車に対するバッシングもあったが、技術力に勝る日本企業が世界市場で一定の割合を占める現状は当面は変わることはないだろう。一方、住宅産業の省エネについて、日本はこれまであまり目を向けてこなかった。住宅の断熱については、西欧など他の先進国の水準からかなり遅れている。しかし逆の見方をすれば、日本に大きな市場があるということである。さらに、日本型の省エネ住宅が開発され、同じような気象条件、地域特性を持ったアジア地域で普及すれば、アジアへと市場の広がりが期待できる。
このように「普及型需要」産業にも、日本の持続的な成長を支える種がまだまだあるといえる。また、「普及型需要」産業は、すでに巨大な市場が形成されていることから、イノベーションによって新たに開発された製品に対する買い替え需要が発生すれば、その規模は膨大となり、国の経済発展に与える効果は非常に大きくなる。したがって当分はここに期待するのは間違いではない。しかし、グローバル化の中でこの分野で技術開発を行う企業間の競争は激しくなっており、技術開発の余地も次第に狭まっている。新たな技術開発を行うことの難しさやそれにかけるコストの大きさなどを考えると、企業によっては撤退せざるを得なくなるだろう。また、付加価値の高い製品ができても、それをタイミングよく市場に投入し需要とマッチさせることができなければ、ほかの国に先を越されることもある。このように、「普及型需要」産業だけに頼っていては、日本の持続的な成長は保証されない。
話が少し変わるが、古くからある産業分野にも拡大可能性がある。例えば一次生産量の多い日本の森林で低炭素化と林業産業とを結び付けることである。現状で低炭素化のためにバイオマスを収集して燃料に使うことは伐採、集荷のコストが高く、また生産量も少ないために燃料化のコストも高くなっている。しかし、建設資材としての木材需要拡大を図る中でバイオマス燃料も大量生産することができれば、木材生産コストのみならず燃料として利用できる部材生産コスト低減も可能になる。このようなシステムを設計することにより、雇用拡大、経済活性化を進めることも可能になる。

3.日本の成長を支える新産業育成

普及型需要」産業の限界を越えて日本が経済的に成長するためには、前述した「創造型需要」産業によって新たな需要を掘り起こすことが重要となる。課題先進国である日本の「創造型需要」産業の分野として、環境・エネルギー関連と高齢化対応を取り上げることに異論を唱える人はいないだろう。
このうち、環境・エネルギー関連産業の代表例が、太陽光発電産業である。すでにコスト競争の段階に入っており、中国の安いパネルに勝ち目がないという声もあるが、20世紀型の「普及型需要」産業のように世界中に普及して市場がすでに形成されているわけではない。潜在的な需要を掘り起こしつつ、これから市場を形成していくべき産業である。もっとも、パネルはすでに市販されているので、「創造型需要」産業の中では市場が形成されつつあるという意味で、一見、新規性はないように見えるかもしれない。しかし、普及促進のために、日本が得意な技術力を十分活かした高品質の太陽光パネルを生産し、企業間の連携を図りながら早期に日本市場に大量投入し、これからコストを大幅に下げ、世界市場を相手にしていく必要があるという意味で「創造型需要」産業として位置づけたほうがよい。
もう少し具体的な話をすると、現在、太陽電池のコストは、350〜400円/Wであるが、今後、国内での導入量が増加し量産体制が確立されれば、2020年には200円/W、2030年には120円/W程度にはなると予想されている。また、現在の発電効率は13%であるが、これもCIGS・シリコン系などの技術開発により20〜30%、さらには60%となることが想定されている。この水準を達成できれば、現在の火力発電に対しても競争力のある電源となり得る。技術、コストシナリオを考えた事業計画を立てることによってグローバル展開が可能な分野である。この場合、将来の技術発展を見通して、成長初期段階から市場占有を高くして、自ら価格設定の可能な展開を図る必要がある。当面、パネルメーカは増加する需要に合わせて国内に大量生産が可能なパネル工場を整備し、研究開発に継続的に力を入れ、周辺施設メーカ、設置企業、住宅メーカ等との連携を図ることが重要となる。さらに、ファイナンス手法の活用などにより購入者のインセンティブを高める工夫をすること、そして何より大事なことはスピードである。「創造型需要」産業といえども作れば売れるということはない。
太陽光発電以外では、高効率給湯器もこの部類に入る。すでに給湯器としてガス湯沸かし器が普及しているが、これとはまったく違った仕組みでお湯を作るシステムとしてエコキュートエネファームがすでに商品化されており、その性能は非常に優れている。これらの高効率給湯器は、「普及型需要」産業の技術革新が生んだ新製品ともいえるが、ヒートポンプ燃料電池の活用により、従来のシステムの効率化という範疇には括れない程の性能を持つことから、むしろ「創造型需要」産業によって開発された新製品としての位置づけのほうがふさわしい。また、これらを商品化して市場に出しているのは日本だけであり、他の国が追随する前に、大量生産によるコストダウンを図り、国内だけでなく世界を相手に販売することが十分可能な新産業であるといえる。さらに、大震災後に安定電源の重要性に価値が見出されている。この新しい価値に対する蓄電、燃料電池による熱電供給システムなど新しい分散型システムも新産業に結びつく。
次に「高齢化する社会」に対応する膨大な新産業があるはずである。現段階では需要規模も小さく市場として成熟していない。しかし、日々の暮らしに直結する分野だけでなく、高齢者の働く場を広げる観点からも元気な高齢社会に対するニーズは確実に増加することが予想されている。安全な自動車、オンデマンド交通ロボットスーツ家事支援ロボット自助介護支援型ハウス、目や歯の再生技術などの製品群とこれらを取り巻く産業が次々に生まれてくるだろう。
高齢化というと、医療費用・介護費用の増大、年金制度の破綻など、悲観的な話が多いが、目指すべきは高齢者が元気に暮らすことのできる社会であり、そのために必要な製品・サービスを提供する産業を創り、経済を活性化させるべきである。
環境・エネルギー関連産業であれ、高齢化対応産業であれ、これらの新産業を育成するには、仕掛け、政策が重要な役割を果たす。市場に存在しないモノやコトは、当初は規模の経済がないため、価格が高くならざるを得ない。市民の行動と政府の後押しで、日本市場に積極的に導入し、コスト削減を図る必要がある。特に、量産効果による価格低下を促すための国や自治体の政策が必要である。

4.新産業育成に向けた日本の戦略

普及型需要」産業にも、「創造型需要」産業にも、日本を成長させる大きな潜在的なポテンシャルがあることは間違いない。しかし、それをどうやって確実なものにしていくかがこれからの大きな課題である。
普及型需要」産業では、グローバル化の中ですでに価格競争に入っていること、そしてこの単なる価格競争にはほとんど勝ち目はないことを認識すべきであろう。これから成長が期待できる途上国の市場においても、日本の企業が韓国、中国等の企業と同じものを同じ方法で作っていたのでは価格で競争できないのは明らかである。
日本がとるべき戦略は、やはり得意の技術を活かして、イノベーションを続け、マーケットをリードすることである。しかも、海外の企業が思いつかない斬新さと追いつけないほどのスピードが必要である。斬新さやアイデアという面で、日本は一部を除いてこれまで世界に通用するものを生み出すことができなかった。しかし、日本が、世界に先駆けて地球的な課題を経験する課題先進国となったことで、これからは、海外よりも課題解決の圧力が強いために、早くアイデアを生み出す可能性も高くなった。また、スピードについては、実用化段階における制度整備と規制緩和を急ぐことと、早く国内での量産体制を構築することが必要である。
さらに、デザイン面でも工夫の入る余地がある。高度な技術が使われ、機能的に非常に優れていても、それを使う人から見て使いやすいものになっているか、美しいか、ライフスタイルと合っているかといった視点がなければ、爆発的に普及することはないだろう。歴史的に日本人の繊細な感覚は、浮世絵をはじめ世界から羨望の眼差しで見られてきた。自動車にしても、電気製品にしても世界をリードする日本のデザインを目指すべきである。
これまで個々の製品について述べてきたが、市場での競争力を増すためには、それらの組み合わせによるシステムを考えていく必要がある。たとえば、自動車と住宅では、それぞれ電気自動車と省エネ住宅となっていくことはすでに述べた。しかし、電気自動車を蓄電池として使えば、住宅の屋根に設置した太陽光パネルで作られた電気を有効に活用することが可能になる。このように、個々の製品を組み合わせて新たなシステムを作ることで、一段と魅力的な競争力のある市場を作ることが可能となる。これらの生活関連システムに加え、交通システム、医療システム、及び、共通に利用するエネルギーシステム、情報ネットワーク等各種インフラを地域に盛り込んだスマートシティを構築すれば、これもまた世界中を市場として売り出すことが可能となる。さらに大きなシステムとして都市システムもある。今後アジアは世界での地位が上がっていくであろう。その中で強いところをさらに強化する例として東京を世界の活動中心都市のひとつにするため、安全、安心で世界との便利な交通、情報のつながりを持ち、楽しい滞在のできる建物・街などを備えたシステムとして売り出せば明るい展開が拓けてくる。これらの可能性を確実なものにする手法が社会実験である。大学等の研究機関の狭い実験室だけがイノベーションを起こす場所ではない。全国の自治体もしくはその一部で地域住民も一緒になって行う社会実験こそ、これからのイノベーションを支える重要なものになる。
これまで述べてきたことは「創造型需要」産業にもあてはまることである。ただ、「普及型需要」産業と比べると次の違いがある。まず、当面は競争相手がそれほど多くない、またはほとんどいないこと、一方、需要の質や量が見えないことである。だからといって、イノベーションにじっくりと時間をかけてよいということではない。地球的な課題の解決に残されている時間はあまりない。しかも、課題先進国である日本は、「創造型需要」産業の社会実験を行うための要素がそろっており、実験結果を活用してこれらの産業を早急に立ち上げ、世界に貢献することも期待されている。そういう意味では日本における「創造型需要」産業の立ち上げは、日本のためだけでなく世界のためにも必要である。
日本でもようやく社会実験という言葉が定着してきたが、今のところ、まだ規模も小さく、社会実験が日本の産業や仕組みに大きな影響を与えた例はあまりない。その理由としては、実験に適した場所を見つけることができないこと、地域住民の賛同が得られないこと、実験実施に関する法規制をクリアすることができないことなどが考えられる。さらに、実験は行ったものの、期間が短く有効なデータを収集することができなかったこと、実験は成功したが、補助金等で実施したため、そのまま継続して地域社会にシステムとして埋め込むことができなかったことなども、社会実験が社会システムとして定着しない理由である。
東北で発生した未曾有の大震災は、日本のシステムの抜本的な見直しを迫るものであった。特に東北の被災地では復興を機会に生まれ変わろうとする機運が高まっており、今の日本の閉塞した状況を打ち破るために、新産業を興す社会実験を行う候補地として最もふさわしいのは被災地かもしれない。
被災地には、社会実験を行うための広い土地があり、各地で策定中の復興計画では新産業の育成・誘致が予定されている。そして、国も復興特区などの制度によって、これらの復興計画の実現を後押ししようとしている。ここで日本の次世代を担う新産業を興すための壮大な社会実験を行うことは理にかなっており、この地域から日本を変えていくことは可能である。
このように考えると、グローバル化によって価格競争にさらされている日本の産業の未来はそれほど暗くはない。日本としては、まず国内各地で社会実験を行い、次の新産業の種を植える、それを日本の市場で育てて、海外で通用するものは海外に打って出ればよい。ただし、これらのステップは、速やかに行われなければならない。現実のスピードは私たちの予想を遥かに超えており、立ち止まっていてはすぐに競争に飲み込まれてしまう。
また、これからの市場はグローバルに規格化され、グローバルな競争を展開する分野と、それとは違った形でローカル化していく市場に分かれていくであろう。多くの市場がグローバルに統合されつつあるが、日本の戦略としてすべての産業がグローバルに展開する必要はない。なぜなら、日本の中で、日本独自の価値観で支えられている市場があり、それが十分巨大であるからだ。「創造型需要」産業であれば、まずは国内需要への対応を図るべきであり、グローバル化の脅威におびえ過ぎないことである。
繰り返しになるが、日本の「普及型需要」産業にも、「創造型需要」産業にも未来がある。しかし、20世紀型の「普及型需要」産業がこれから成長する余地は限られている。人工物の飽和と効率性の限界がその主な要因であり、厳しい価格競争の中で買い替え需要を取り込むために間断なきイノベーションとスピードが求められる。一方、「創造型需要」産業の中には、これからの日本を創造する産業が生まれてくる可能性がある。日本は課題先進国であるメリットを十分活かしつつ、世界に先駆けてこの「創造型需要」産業に力を入れるべきである。また、エコで高齢者が生き生きと暮らし、人が成長し続け、雇用がある社会、すなわち「プラチナ社会」の実現に向けて、「創造型需要」産業は鍵を握る産業となるはずである。さらに、その中には、社会システムやその構成要素を世界中に展開し地球的課題の解決に貢献する産業も出てくるだろう。日本の再生は「創造型需要」産業の創出と展開にかかっていると言っても過言ではない。
山田 興一(やまだ こういち)
独立行政法人 科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 副センター長
東京大学 総長室顧問
横浜国立大学工学部卒業。住友化学入社。同社主席研究員、東京大学工学部客員教授、同大大学院工学系研究科 教授、信州大学繊維学部教授、地球環境産業技術研究機構理事、東京大学理事(2005 〜 2009)を経て、2009 年より現職。専門は化学システム工学、地球環境工学。無機粉末、材料製造省エネルギープロセスの研究開発、地球温暖化対策技術の設計・評価、燃料電池、太 陽電池に関する基礎研究、生態系を利用した温室効果ガス制御システムに関する研究など。
主な著書
『地球環境のためのエコマテリアル入門』(編著、オーム社)
『Handbook of Batteries』(共著、Linde)
『新エネルギー自動車の開発』(監修・共著、シーエムシー出版)
『太陽光発電工学』(日経 BP 社)
『電力危機』(共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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